データ復旧時事ニュース-5
サスペンションってなんだ?
http://mainichi.jp/articles/20160726/k00/00e/040/206000c
HDD部品(サスペンション)カルテル疑い TDKなど2社公取委立ち入り
世界中のパソコンに使用されるハードディスクドライブ(HDD)の主要部品でカルテルを結ぶなどしていた疑いが強まったとして、公正取引委員会は26日、独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で大手電子部品メーカーなど2社に立ち入り検査した。カルテルは海外の市場にも広がっているとされ、米国などの当局も調査を開始した模様だ。公取委は2社の担当者から事情を聴き、カルテルの全容解明を進める。
立ち入り検査先は、いずれも東証1部上場の電子部品大手・TDK(東京都港区)と、ばね製造・販売大手の日本発条(ニッパツ、横浜市)。
関係者によると、2社は少なくとも数年前から、HDDの部品のうち、データの記録・読み取りに使われる磁気ヘッドを支える精密ばね(サスペンション)の価格などを話し合いで決めていた疑いがある。
TDKのタイの現地法人と日本発条を合わせたサスペンションの世界市場のシェアは7割を超えている。
HDDの内部では、磁気ディスクの高速回転で空気の流れをつくってヘッドを浮上させている。サスペンションは、高速で回転するディスクとヘッドが接触しないよう、両者の間隔をナノ(10億分の1)メートル単位で保つ役割をしている。HDDの大容量化のためにも、サスペンションの技術が重要になっているという。
DD-RESCUE より
日常的にHDDに触れている人でも、サスペンションという部品の名称はあまり馴染みがないと思います。
・データ復旧サービスで行うヘッドの交換は、通常「ヘッド・キャリッジ・アセンブリー(HCA)」などと呼ばれている、ヘッド、ヘッドアーム、ボイスコイルモータで構成されている部分全体を交換してしまうので、構成している個別部品の名称には触れることはないのですが、サスペンションは、ボールベアリングが付いているアルミの削り出し加工でできている部分の先についている、ステンレス板でできているバネの部分を指し、ヘッドはこの板バネの先端に付いて、自動車のサスペンション(懸架装置)が路面の凸凹にかかわらず車が安定した姿勢を保つことを目的としているのと同じように、タイヤの代わりに取り付けられたヘッドが、プラッタのゆがみや取り付けによって発生した振れのなど変位に関わらず、既定の浮上量を保ち、データの書き込みや読み出しが安定して行えるように支えることがHDDのサスペンションの目的で、最近のHDDのヘッドの浮上量は約2nm(1/50マイクロメートル)という微小な世界なので、超精密な精度が要求されているのです。
・サスペンションが原因となって発生する障害例はあまり知られていませんが、サスペンションの共振現象によるエラーの発生があげられます。これは、外部からの振動が特定の周波数となったときに、サスペンションのバネ定数などとの間で共振現象が起こり、リード・ライトエラーの発生確率が特定の環境に限定して高くなるというもので、サーバルームなどで特定のラックにエラーが多発するなどの場合に精密な診断を行わないとなかなか見つけることはできません。
昔の例では、某メーカの特定のモデルで、平均的には故障の発生率が高いわけではないのですが、キーンという高音が発生すると短時間でクラッシュが発生してしまうものもありました。これは、サスペンションに、ねじれ剛性の問題があり、スティック・スリップ現象(木の枝などが、川の流れによって、少し流されると、枝が引っ張られて発生する力で元の位置に戻され、また少し流されると、元の位置に戻る、その往復を繰り返すような現象)のような繰り返し運動が起こることで、その周期(周波数)の高音を発生、リードエラーの発生頻度が多くなり、ひどくなるとプラッタと接触し傷をつけ、クラッシュとなるものでした。このような、キーン音と同時にリードエラーを起こしているドライブから、リードエラーの発生を防いでデータを回収するための裏技として、サスペンションに小さな異物を接着したり、サスペンションをわずかに変形させることを知っているのは、昔からデータ復旧に携わっていた古い人間だけになってしまったようです。